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モノクロライフを総天然色生活にするブログ
Category: 生活 — written by tsujio 10.10.05.(火) 01:43

秋の匂いがする

毎年この時期になると小さなことでしょんぼりしたりイライラしたり、感情が不安定になる。
夏の余熱と冬の前兆が交互に来る不安定な日々に気持ちもグラグラするからだろうか。

「もうっ、そんなことせんといてよっ!」「何でそんなことするのよっ!」
スーパーや駅で連れている子供に声を荒げるお母さんは若く、子供は小学校低学年かそれよりもと幼い。

“彼氏とちゃうぞっ、お前の子供やろがっ”
その光景を見るたびそう思う。
親子じゃなくて子供が二人いて喧嘩しているみたいだ。

近所の一軒家におばさん、いや、“老女”かな、がひとりで住んでいる。
仮に“山さん”と呼ぶけど、山さんの家は夏の殺人的な暑さの昼日中でも雨戸を閉め切っていた。
クーラーの室外機も見えない。

山さんは痴呆が始まっているらしく、日がな一日家のまわりをウロウロしては通りかかる人に「今何時ですか?」「今日何日ですか?」「新聞が来ないんです」と話しかける。

近所の人は慣れっこになっていて、声をかけられてもたいてい愛想笑いだけで済ませている。
子連れのお母さんなんかは声を掛けられるともっと露骨に顔をこわばらせ、「はやくしなさい」と子供の手を強く引き足早に通り過ぎる。

初めて声をかけられた日曜日のお父さんなんかは「新聞が来ないんですか。どこの新聞ですか?あ、それなら販売店に確認したほうがいいですよ。ホラ、その向こうに新聞屋さんがありますから・・・」
と親切に教えてあげたりしている。
教えてもらった山さんは「どうもありがとうございました。助かりました」と丁寧にお辞儀をし、また通りかかった人に「今日何日ですか?新聞が来ないんです・・・」とやりはじめる。

メビウスの輪のように繰り返されるこのやり取りを、僕はこの数年間たびたび目にしてきた。

山さんは後妻らしく、亡くなった旦那さんとの間に子供は無かったらしい。
僕はこの場所に住んで5年ほど経つが、その間に義理の息子(娘?)夫婦が尋ねてきたのを観たのは2回か3回だけだ。

痴呆が進行している老女のひとり暮らしをさすがに放っておけなくなった家族が手配したのか、市にそういう介護制度があるのかわからないが、最近デイサービスのおばさんが原付でやって来るようになった。
同時に山さんのレパートリーに“今日は何日ですか?お友達が来るはずなんですけど・・・”というのが追加された。

「お友達が来るとほんとに楽しくて楽しくて」と無邪気に笑う山さんをみたり、おばさんに手を引かれてコンビニに買い物に行く姿を見ると「よかったなぁ」と無責任に思ったりした。

それまでの30度を超えていた酷暑から一転、一気に5度も最高気温が下がった日の夕方、バス停からの坂道を登っていると、「ブイィィィー」と排気音を残して帰るおばさんとすれ違った。
坂の上には出稼ぎに行く子供を見送る母親のように大きく手を振って笑っている山さんがいた。
おばさんが見えなくなっても夕日を浴びた銀歯を光らせながら「ばいばーい、ばいばーい」と子供のような笑顔で手を振る山さんの笑顔を見て、なんだか泣きそうになった。

涙腺が緩む秋。

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