夢屋
客はまず温泉に浸かり浴衣に着替える。
湯上りに通された日本間では山から吹き下ろすひんやりした風が風鈴を鳴らしている。
卓には地物のカツオと辛口の地酒。
遠くからかすかに聞こえる鈴虫の「リリリ」という声を聴きながら腰をおろす。
くちくなったお腹を抱えほろ酔いの体を横たえると頭は膝枕。
コリコリカリカリとほじってもらうと程なく下がってくる瞼。
スースーという寝息が聞こえると女はおもむろに鈍く光る銀色の輪っかを取り出し男の頭にはめる。
隣室では年配の技師がモニタに映し出される脳波を凝視している。大きく落ち込んだ脳波が水平に戻るか戻らないかの位置に戻る。熟睡からレム睡眠に移ったその瞬間、技師はマイクで指示を出す。
インカムで合図を聞いた女は、袖の下から封筒を出す。
取り出した和紙には中央に「空を飛ぶ」との文字が毛筆で。
一刹那動きを止めた女はおもむろに体を折り曲げ男の耳に口を近づける。
「鳥、巣立ち、大空」
ささやき続ける女。
脳波がふたたび落ち込むと女はささやくのをやめ、うちわでゆるりゆるりと男をあおぐ。
脳波がレム睡眠になると
「グライダー、グランドキャニオン、たんぽぽ」
熟睡するとうちわ。
これを朝になり男が目を覚ますまで繰り返す。
空を飛びまわる夢を見た男は翌朝満足げに店をあとにする。
望んだ夢を見せてくれる「夢屋」。
一泊二食付き3万5千円ではどうでしょう。
安いよ。
女が大変すぎる。
そやなぁー15万くらいでどうかな。
庶民が通う店じゃ無い、という設定。